プーアル茶のことならプーアール茶.comプーアル茶選びのポイント

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プーアール茶の茶葉の見方、上級編

■はじめに
このページでは茶商たちのプロの観点を少し紹介します。

■葉底を詳しく見る
葉底(ye di)とは、煎じた後の茶葉のことです。
茶葉は、お茶として完成するとカラカラに乾燥して、元の姿を失っていますが、湯を含んで開いてくると、ある程度復元されます。
このため、お茶の高級品は「リーフティー」と呼ばれ、茶葉そのものが製品となっています。ティーバッグやペットボトルでは知りようのない、素材の質を確かめることができます。

■熟成年数のちがいを葉底から見る。

2012年の生茶プーアル茶の葉底 1970年代の生茶プーアール茶の葉底
左: 2012年の生茶プーアル茶
右: 1970年代の生茶プーアル茶

つくりたてのお茶は元の形を復元しやすく、熟成年数が経ったお茶は、変質して復元しにくくなっています。上の写真の1970年代のお茶は、揉捻で捻じれたままの形が元に戻りません。

■産地を葉底から見る
西双版納の茶山は、瀾滄江(メコン川)を境に東側(江北)と西側(江南)に分けられます。東側と西側とで茶葉の形にそれぞれに特徴があります。そしてお茶の風味も異なります。

易武山のプーアル茶の茶葉 南糯山のプーアル茶の茶葉
左: 東側(江北)易武山
右: 西側(江南)南糯山

これには歴史が関係しています。
雲南大葉種と呼ばれる西双版納一帯にもともとある種類の茶樹と、1570年代から漢族の移住により改良された茶樹とは、葉の形がやや異なり、それが葉底の形に現れます。
+【西双版納の江北の茶山】
+【西双版納の江南の茶山】

大葉種喬木の茶葉 易武山春尖
左: 「攸楽山」と「易武山」の若葉
右: 「易武山1950年代」と「易武山2006年」の若葉

東側の茶山を代表する「攸楽山」と「易武山」の葉底です。
小さめの若葉にぽってりと円い形をした葉が混じっています。この形がひとつの特徴です。1950年代の古いプーアール茶にもそれが見つかるので、近年の改良により変化したものではありません。 清朝1700年代の貢茶づくりのときにはこのタイプの茶樹がすでにあったと推測できます。


左: 「老斑章」と「巴達山」
右: 「老斑章」と「易武山」

西側の茶山を代表する「老斑章」と「巴達山」の葉底は、小さな若葉にも細長く先のとがった形が見られます。
成長して大きくなった若葉の形は東側も西側も似ていますが、小さな若葉にそれぞれの特徴が現れています。

巴達山古茶樹切り戻し茶樹の茶葉 巴達山新茶園の茶葉
左: 巴達山古茶樹の茶葉
右: 巴達山新茶園の茶葉

森の中の農地に一本一本独立して植わっている樹齢200年以上の古茶樹と、畝づくりの新茶園に密植されている30年くらいの若い茶樹との比較です。品種は同じです。2つは近い場所にあり土質も似ているはずです。
巴達山の場合は、古茶樹のほうが厚みがあり、青味があり、弾力があり、茎の断面に丸みがあり、葉脈がはっきりと現れています。

巴達山野生茶樹の茶葉 巴達山古茶樹の茶葉
左: 巴達山野生茶樹の茶葉
右: 巴達山古茶樹の茶葉

野生茶樹と古茶樹は形が似ていますが、それでも育成環境の違いが葉底に現れます。
これも前提として、同じ山の近場であり、かつ近種と思われる茶葉での比較です。西双版納の野生茶にも、山ごとに葉の形や色の様相が違い、さらに数種類が混生しています。

巴達山野生茶樹の茶葉 巴達山古茶樹の茶葉
左: 巴達山章朗寨・野生茶樹
右: 巴達山章朗寨・古茶樹

野生茶樹は、森の中の半日陰のところを好んでひっそりと暮らしています。お茶に加工できる新芽や若葉は、4月中旬の暖かくなって雨の季節に入る頃にようやく春いちばんの収穫ができます。
古茶樹は、森の中にありながらも雑木を間引いて採光を確保したり、伸びすぎた枝を剪定したりされるので、早ければ3月はじめの乾季のうちに新芽や若葉が収穫できます。
この茶摘みのタイミングの違いが葉底に現れます。
野生茶樹の新芽や若葉は水分豊富で育ちの良い形をしています。
古茶樹は3月の水分の少ないときの形をしています。 いずれも春茶として販売されますが、それぞれの風味があります。

■茶摘みを葉底から見る
西双版納では手摘みが基本です。
そして現在は摘むときに挑茶(等級を選び分ける)をしないのが一般的で、一芽二葉か一芽三葉で摘まれます。
茶葉は春いちばんから晩春にかけて、徐々に成長のスピードを上げてゆきます。
春いちばんはまだ成長が遅く小ぶりで、タテに短く、茎の部分も短いです。晩春になるにつれて成長が早く大ぶりで、タテに長く、茎の部分も長くなります。
秋の旬はその逆で、晩秋になるほど成長が遅く小ぶりになり、タテに短く、茎の部分も短く詰まってゆきます。
同じ茶山の葉底を比べると、茶摘みのタイミングを推測することができます。

早春のプーアル茶の葉底 晩秋のプーアール茶の葉底
左: 3月中旬の葉底・南糯山
右: 4月中旬の葉底・南糯山

■旬を葉底から見る
プーアール茶の生茶は、他のお茶に比べて火入れが少ないため、茶葉の変質が少なく、茶摘み時の質感がそのまま保たれています。

旬のプーアル茶の葉底 晩秋のプーアール茶の葉底
左: 3月上旬の葉底・易武山
右: 9月下旬の葉底・易武山

とくに春の旬の早摘みの茶葉は、繊維質が少なく、お茶の味を構成する成分が多いため、茶葉の茎の部分を指で軽く潰せるくらい柔らかい質感です。葉もまた同様です。雨の量が多くなる旬を外した茶葉は、茶葉の成長段階で繊維質が多くなり、茎の部分は硬くて指でつまんだくらいでは潰れません。

■製茶技術を葉底から見る
葉底から製茶の技術を読み取ることができます。
とくに生茶のプーアール茶は農家での晒青毛茶づくりが風味を大きく左右するため、餅茶に圧延加工する前のチェックが有効です。
晒青毛茶は完成品とは言えませんが、当店ではアウトレットなどで臨時的に出品しているので、お客様も入手できる機会があります。

葉底でわかるプーアル茶の製茶技術 葉底でわかるプーアル茶の製茶技術

人里離れた森林に農地がある場合は、茶摘みが終わってから鮮葉を持ち帰るのに1時間以上かかることがあります。竹籠やビニールで編んだ袋に入れて圧迫された状態でゆさゆさ揺すられると、摩擦で軽発酵が促されて成分変化がはじまります。中心部は人肌ほどに発熱して変色します。

この現象は、半発酵の烏龍茶づくりなどに利用されるものなので、品質を落すとは言えませんが、意図した風味ではありません。
道中でシートを広げて鮮葉を撹拌して冷ますなどの工夫もありますが、そこまで追求する農家はまだ少ないと言えます。

早春のプーアル茶の葉底 晩秋のプーアール茶の葉底

殺青の火力が強すぎたり、鮮葉に水分が多く残りすぎていたり(直前の乾燥が不十分)すると、柔らかな若葉の葉先あたりに焦げ跡の付くことがあります。完成したお茶にほんの少し焦げた風味が残ります。

鉄鍋で炒る製法は伝統手法であり、かすかな焦げ味はこの地域のお茶の個性です。その芳ばしさが美味しさにつながるか、それとも嫌味になるかは、技術差が現れるところです。

左:変色した茶葉 右:正常な茶葉 左:変色した茶葉 右:正常な茶葉
左:変色した茶葉 右:正常な茶葉 左:変色した茶葉 右:正常な茶葉
左:餅茶A  右:餅茶B

上の写真は同じ茶山のものですが、葉底は餅茶Aに赤っぽく変色したところがあります。餅茶Bは均一にできています。これは殺青の火入れが不十分であったりムラがあったりして、成分変化がすすんだ状態のものです。茎の部分から赤く変色する傾向があります。
また、殺青がうまく仕上がっていても、雨や曇りのために乾燥に2日かかった場合にもこうなることがあります。

上の写真は餅茶の圧延加工後の乾燥が不完全なものの葉底です。
餅茶の表面は乾きが早いので外見からはこの問題はわかりません。崩して飲むとわかります。茶湯には鉄の錆びたような臭いがあり、茎の部分に黒く焦げたような変色が確認できます。

■熟茶の葉底を見る
熟茶は微生物発酵により茶葉が変質しています。
元の晒青毛茶の姿を留めてはいませんが、製茶や発酵の仕上がり具合をみることができます。

天字沱茶90年代初期 (プーアル茶) 天字沱茶90年代初期 (プーアル茶)
天字沱茶90年代初期 (プーアル茶) 天字沱茶90年代初期 (プーアル茶)
左: 煎じる前の茶葉
右: 煎じた後の葉底

熟茶の茶葉はもろくなっているので崩したり煎じたりするうちにも形が壊れていきますが、中にはより早く発酵を仕上げるために茶葉が裁断されている場合があります。

大益7562磚茶06年 大益7562磚茶06年

メーカーの製品はブレンドのために発酵後の茶葉を機械で篩い分けします。等級別にしてから、小さめの茶葉を高級品、大きめの茶葉を廉価品に再構成します。また、別々に発酵させた発酵度の異なる茶葉をブレンドすることもあります。上の写真の熟茶には発酵度の異なる3つの色が葉底から見つかります。

熟茶プーアル茶 熟茶プーアル茶

古茶樹の大きな茶葉を渥堆発酵させている途中の茶葉です。
菌類の好む栄養分の多い大きく育った茶葉や茎から順に発酵が進むのが葉底からわかります。
渥堆した茶葉の山を何度も撹拌してムラをなくしてゆきますが、その差は最後まで残り、等級による風味の違いを生みます。

熟茶プーアル茶 熟茶プーアル茶
左:  渥堆発酵度の違い
右:  倉庫熟成度の違い

渥堆発酵の違いだけでなく、保存熟成によっても葉底の質は変わります。
広東や香港の湿度の高い茶商の倉庫で熟成された、10年モノ20年モノの葉底はより黒く変色し、変質して弾力と潤いを失ってカサカサシワシワしています。

■熟茶の発酵の菌類
1970年代からはじまった熟茶づくりの渥堆発酵は、メーカーの施設内という限られた場所であることと、水分を加えたり保温したりして良性の菌類の活動を積極的にうながすために、ある程度コントロールができているので、菌類がどのようにしてお茶を美味しくするのかが解明されつつあります。
「渥堆」には様々な菌類がグループをつくって働いています。

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黒麹カビ(Aspergillus niger)
青カビ(Penicllium)
クモノスカビ(Rhizopus)
灰緑麹菌(Aspergillium gloucus)
サッカロミケス酵母菌(Saccharomyces)
土生麹菌(Aspergillium terreus)
白麹菌(Aspergillium candidus)
その他雑菌(Bacterium)
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(雲南科技出版社 「雲南普シ耳茶」の一部を参照)

これらの菌類は相互に作用して、例えばある菌の活動によって発生する熱で別の菌が活動しやすくなったり、ある菌の活動によってつくられた成分が別の菌の栄養になったりして、その結果人の体に良い成分や美味しさの成分をつくります。さらに他の悪い雑菌を寄せ付けない抗生物質や、劣化を防ぐ抗酸化物質もつくるので、より保存に強いお茶になります。

■茶商の倉庫熟成を葉底から見る
1990年代以前の年代モノのプーアール茶は、そのほとんどが広州や香港に流通し、倉庫熟成されていました。
倉庫環境によって熟成具合が異なります。それが葉底に現れることがあります。保存年数が経つほどに熟成がすすみますが、それよりも倉庫の環境の差が大きくなります。

湿倉のプーアル茶葉 乾倉のプーアル茶葉
左: 重湿倉の葉底(茶葉に水をかけられた倉庫のもの)
右: 乾倉の葉底(常温常湿の倉庫のもの)

現在は少なくなりましたが、広東や香港では生茶のプーアール茶に水をかけて再発酵させる手法がありました。主に飲茶用の安価な品ですが、年代モノの高級茶の贋作にも一部その試みがあります。
生茶にもかかわらず熟茶のように熟成ムラができ、緑の残っているところや黒く変色したところが混在します。常温常湿の倉庫でじっくり長年熟成したものには、こうしたムラはありません。

7542七子餅茶 7542七子餅茶
左: 1980年頃 比較的乾燥した倉庫
右: 1980年頃 比較的湿度のある倉庫

茶商の倉庫の在る地域によって、あるいは地下・1階・2階・3階という位置によって、あるいは茶商個人の考え方によって、温度や湿度の環境に差があります。同じ銘柄の同じ製造年のお茶で比べると、保存環境の違いが浮き彫りにされます。

■年代モノの茶葉を葉底から見る
年代モノの有名銘柄の鑑定には、葉底の見るべきポイントが鑑定本に示されています。

早期紅印春尖散茶 早期紅印春尖散茶

上の写真『早期紅印春尖散茶1950年代』は、易武山の古茶樹の春の旬の一級~二級のみということから、易武山のポッテリ小さな茶葉の形のものが混ざっているかどうかを確認します。
茶葉の表面に小さなイボイボのようなのが浮かんでいることも重要なポイントです。これが年数を経たことによってできるものか、それとも金花などお茶を美味しくする菌類の活動の跡なのか、まだよくわかっていませんが、本物に共通してある特徴です。

班章老餅茶 義安棗香73特厚磚茶
左: 1990年ごろ製造の熟茶
右: 義安棗香73特厚磚茶 (1973年)

熟茶は1973年に量産品第一号がリリースされたので、いちばん古くても1973年製です。渥堆発酵の仕上げ方は年代によって変わってきており、一般的に1970年、1980年代、1990年代、2000年代とだんだんと発酵度を上げていった傾向があります。1970年代のものはどちらかというと生茶に近いような軽い仕上げが多いのですが、年数を経たために葉底は黒く枯れたような質感があり、葉脈だけが残っているような朽ちた茶葉も見つけられるのが特徴です。
このような本物に共通した特徴が葉底にもあり、それが無いものはどこか怪しいと疑うことになります。


■圧延の具合を見る
固形茶は、遠い辺境地からお茶を運び出す知恵ですが、圧延加工のための熱や水分、その後の乾燥の仕方で、風味は少なからず変化します。
その技術や圧延の緊密度によって、風味が異なります。それは保存熟成にも影響するので、鑑定のポイントとなります。

■圧延のタイプを見る
圧延には押し型のタイプと、圧力の加え方にいくつか手法があります。
一般的に円盤型の餅茶は布でくるんでから型で圧します。くるんだ布の結び目が餅茶の裏面中央にくるため、そこに窪みができます。

中茶牌鉄餅簡体字版 8892後期紅印圓茶
左: 「中茶牌鉄餅簡体字版」 下関茶廠製造
右: 「8892後期紅印圓茶」 孟海茶廠製造

窪みの形や大きさはメーカーや年代によって異なるので、鑑定のポイントになります。

くぼみから外側に向けて、一筋の溝があるプーアール餅茶・プーアル餅茶 くぼみから外側に向けて、一筋の溝があるプーアール餅茶・プーアル餅茶

1950年代に裏面に窪みのない餅茶が下関茶廠から販売されました。布を使わずに鉄の型で強く押し固めた「鉄餅」と呼ばれる第一号のお茶です。
【早期藍印鉄餅50年代】
緊密に茶葉が詰まり空気を通さないので、新鮮な風味を密封できる特性があります。しかし、このタイプは中央のいちばん厚いところが乾燥しにくく、また通気が無いため水分を逃がしにくく、湿度の高い広東や香港ではカビになりやすく、当時はあまり評判が良くありませんでした。
今日ではメーカーの乾燥技術が向上し、保存は乾燥した環境で行われるようになっています。

下関茶磚80年代 義安棗香73特厚磚茶
左: 「下関茶磚80年代」 下関茶廠製造
右: 「義安棗香73特厚磚茶」 景谷茶廠製造

レンガ型の磚茶にも布を使ったタイプと使わないタイプがあります。固形茶の表面の布の跡や、角のシャープさでその違いがわかります。

機械による揉捻 手作業による揉捻
左: 「大益7542七子餅茶06年」2006年
右: 「紫大益7542七子餅茶00年」2000年

上の写真は同じメーカーの餅茶ですが、新しい2006年製造のものがより強い圧力で固められています。両方とも機械圧延と思いますが、年代によって圧力の掛け方が違います。

くぼみから外側に向けて、一筋の溝があるプーアール餅茶・プーアル餅茶 くぼみから外側に向けて、一筋の溝があるプーアール餅茶・プーアル餅茶

1950年代までの易武山でのお茶づくりは、石型の上に人が乗ってゆさゆさ揺する圧延方法でした。機械圧延よりも圧力は弱いのですが、揺する動きでで茶葉と茶葉が形を詰めて自然に緊密に詰まります。ほんの少しの通気を許し、より変化しやすい風味が楽しめます。
1990年代後半から石型の餅茶づくりが一部の品で復活しています。

■圧延と茶葉の質の関係を見る
圧延の強さは茶葉の質が大いに関係しています。

下関プーアル茶 義安棗香73特厚磚茶
左: 「下関茶磚80年代」  厚さ 2.7cm
右: 「義安棗香73特厚磚茶」 厚さ 4.2cm

小さな新芽や若葉は粘着力が強く、隙間なく緊密に固まりやすく、圧延が薄く仕上がります。
大きな茶葉は粘着力が弱く、隙間ができやすく、圧延が厚く仕上がります。
それは長期保存によってさらに大きな差となって現れます。

厚紙8582七子餅茶プーアル茶 大益茶磚96年プーアル茶
左: 「厚紙8582七子餅茶プーアル茶」1985年
右: 「73白紙特厚磚プーアル茶」1973年

大きめの茶葉が多く使われた餅茶や磚茶は、年数が立つほどに茶葉と茶葉の隙間が空いてきて、さらに厚みを増し、また一枚一枚に厚みの差が生じてきます。年代モノのお茶の鑑定のポイントのひとつです。

7542七子餅茶プーアル茶 7542七子餅茶プーアル茶
左: 「7542七子餅茶」2006年製造
右: 「7542七子餅茶」1999年製造

上の写真は同じ銘柄のお茶の異なる年代もののですが、右側の古いほうの餅茶は、茶葉と茶葉の間にすきまが生じてきており、端のほうから崩れやすくなっています。

7542七子餅茶の表面 7542七子餅茶の裏面
左: 餅茶の表面
右: 餅茶の裏面

1970年頃、国営孟海茶廠では等級の異なる茶葉を表と裏に配置して一つの餅茶に仕上げる「配方」のお茶が開発されました。上の写真では、表面の小さな茶葉の質感と、裏面の大きな茶葉に茎が混じる質感の違いが見られます。

当時は易武山の高級茶葉が使用されましたが、2004年民営化後の孟海茶廠の配方の製品は、孟海県の安い茶葉が使用された大衆品となっています。
+【7542七子餅茶の生い立ち】(参考ページ)

プーアール茶メーカー プーアール茶メーカー

なお、この配方の餅茶の圧延には、一時期木型が使われていたのではないかと当店では推測しています。 石型よりも強く、機械圧延よりも弱い、中間くらいの仕上がりです。


■銘茶の鑑定
プーアール茶の年代モノは高価なために模造品が多いのですが、1950年代~1980年代後半までにつくられた銘柄の数は限られているため、文献に写真や文章で記録されたものが多く、それが鑑定の助けとなります。

例えば、2000年代に作られたものを1970年であると販売されても、経験のない消費者にはわかりにくいことです。中華圏ではたとえ老舗の専門店でも知識のない客に価値の低い品を売ることに躊躇はありません。
考古学者が偽モノ骨董品を売る手伝いをするようなことは、よくあることなのです。このようなことでは、年代モノのプーアール茶から消費者が遠ざかってしまいます。

「鑑定本」と呼ばれる書籍がいくつかありますが、鑑定のポイントを紹介し、模造品の販売を難しくしたことは、消費者だけでなくメーカーにとっても流通にとっても良いことでした。

また、有名銘柄には相場があります。何軒かの専門店を見てまわれば、大体の相場がつかめます。その銘柄の相場を知ると、むちゃくちゃな値段で買うことにはなりません。逆に、相場よりも安すぎる場合にもなにか理由があることがわかります。

2000年以降に雲南の茶業が民営化されたことで、銘柄の数が爆発的に増え、鑑定本は追いつかず、またその存在の意味をなくしました。現在はメーカーや銘柄で選ぶのではなく、茶葉そのものの質を見る鑑定が有効となっています。

追記: 2012年6月21日
この文章をはじめに書いたのは2005年の頃でした。その頃はまだ市場に1970年代や1980年代のプーアール茶が多くあり、当店でも入手できました。しかしその後数が減ってゆき、2009年からは当店で入荷できなくなりました。年代モノの本物のプーアル茶は、広東や香港の一部の老舗茶荘に残るのみとなっています。

■鑑定本を利用する


「茶藝」五行圖書出版有限公司  「8582七子餅茶特集」

年代モノの銘柄によって、適切な鑑定本を選びます。
例えば、1950年~1990年代の七子餅茶については、台湾の『深遠的七子世界』五行圖書出版有限公司の調査が優れています。
当店のお茶の紹介ページでは、参考文献を記載しています。
【厚紙8582七子餅茶プーアル茶】(参考ページ)
また、最近ではファンが運営しているインターネット上のサイト(中国語)も参考にします。いずれも間違ったところもあるので、疑わしいところは出版社のに問い合わせたり、経験のある茶商や収集家に意見を求めています。

■内飛・内票・包紙の印刷
鑑定には、茶葉、圧延の技術、熟成の仕上がり具合、包み紙の質、印刷物の文字のデザイン、紙の具合、扱った茶商、過去にそれが保存されていた場所、その他あらゆることを手がかりにして総合的に見てゆきます。

内飛 プーアール茶・プーアル茶 内票(neipiao)
左: 内飛(neife)。茶葉に埋め込まれた5~6cm程の紙
右: 内票(neipiao)。包み紙の中に入っている紙
内飛(neife)と内票(neipiao)は代表的な鑑定のポイントです。

内票(neipiao) 内飛 プーアール茶・プーアル茶
左: 1970年代~1980年代に多い「中」の字
右: 1980年代後半からに多い「中」の字

内票(neipiao) 内票(neipiao)
左: 1970年代~1980年代に多い「七」の字
右: 1980年代後半からに多い「七」の字

包装紙の印刷文字にも年代による違いがあります。銘柄によって異なるので鑑定本を参照します。もちろん鑑定本にも書いていない例外もあります。

■サンプル茶葉

最終的に決め手となるのは、試飲による「味覚鑑定」ですが、人間の味覚はそれひとつ試しただけでは詳細なことがわからないため、必ず飲み比べをします。そのため有名銘柄のサンプル茶葉が多いほど、鑑定の精度は上がります。
鑑定に値するプーアル茶は限られています。
1950年頃から1995年頃までは限られたメーカーしか輸出向けの高級プーアル茶を作っていませんでした。その間は雲南の茶葉は国の専売公社制だったので、メーカー名が記されていないものもあります。

■国営時代の茶廠

孟海茶廠 孟海茶廠
■ 孟海茶廠 雲南省西双版納(Xishuangbanna)
■下関茶廠 雲南省下関(Xiaguan)
■ 昆明第一茶廠 雲南省昆明(kunming)

1950年頃から1995年頃まで、この3つのメーカーが輸出向けプーアル茶のほとんどをつくっていました。例外として、昆明第一茶廠が景谷茶廠に製造を委託したお茶もあります。
この間は中国国内に高級プーアル茶はほとんど流通していませんでした。まだ経済発展する前の中国では、高級茶は外貨を獲得する重要な産業品だったのです。
メーカーは基本的に近場のお茶どころの茶葉を集めました。
「孟海茶廠」は、西双版納のお茶。
「下関茶廠」は、 臨滄のお茶。
「昆明第一茶廠」は、景谷のお茶。
それぞれに風味も異なります。

■近年の茶廠

新しいプーアール茶メーカー 新しいプーアール茶メーカー

2000年頃を境に雲南の茶業が自由化され、大小様々なメーカーが自由にプーアル茶をつくり販売しています。
歴史ある易武山の小さな茶荘(工房)での餅茶づくりも復活しています。
【プーアール茶ができるまで】(参考ページ)
2004年には国営の老舗のメーカーも民営化を果たしました。
民営になると自由競争のため、お茶づくりの考え方も大きく変わってきています。販路も専門店だけだったのが、デパートやスーパーの量販店にまで広がっています。

■模造品の印刷の例

厚紙7532七子餅茶
左: 「厚紙7532七子餅茶」 孟海茶廠製造
右: 小さなメーカーのコピー品

後期紅印圓茶90年代
左: 「後期紅印圓茶90年代」 孟海茶廠製造
右: 「後期藍印圓茶90年代末」 中国茶叶雲南省進出口公司

民営化後に昔の名作に使われていた包装デザインの権利が曖昧になって、コピーされ放題です。

孟海茶廠の大益青餅 孟海茶廠の大益青餅

そのため年代モノの鑑定は包装紙の印刷ミスなどの特徴をも手掛かりにするようになっています。
写真の孟海茶廠の「大益」商標は、1988年に例外的にレンガ型の磚茶のものがありますが、それ以外は1994年以降のものです。それにもかかわらず、大益マークのついた1980年代のお茶を紹介しているお店もあります。
大益牌(商標)については以下のページをご参照ください。
+【大益牌について】

品質保証マーク 生産日付

大益シリーズの品質安全マークは2007年から導入されています。2006年の製品にはありません。

緑色食品のプーアル茶 緑色食品のプーアル茶

緑色食品に人気が出たので、メーカーはこのマークを入れたがりますが、一般的な食品と同じく賞味期限の表示が義務となり、保質期:36ヶ月と表示されています。 実際には5年でも10年でも保存熟成できます。

■茶葉の二次加工の例
茶葉にも小細工された品があります。

易武山の野生茶葉をつかったプーアール餅茶・プーアル餅茶 二次加工品のプーアール餅茶・プーアル餅茶
左: ホンモノの生茶と、二次加工して変色させたもの
右: 二次加工で変色させた茶葉の表面

餅茶を蒸して変色させてあります。悪い色ではありませんが、表面の光沢や、茶葉の質感、茶葉の色、それぞれに不自然な点があります。試飲鑑定するとすぐに解ります。

二次加工の熟茶プーアル茶 二次加工の熟茶プーアル茶

新しい熟茶を古く見せかけるようにしてあります。四川省の成都のお茶市場で見つけたもので、1980年代の「7581文革磚茶」であり香港の茶商と太いパイプがあるから本物まちがいなしと高値で勧められましたが、よく見ると、包み紙の印刷の文字のデザインや、茶葉の様子がおかしいです。これも試飲するとすぐに解るので、本物の味を知っておくことが大事です。


お客様のご質問

■特定の銘柄のお茶を探せますか?
ご質問:
特定の銘柄のプーアル茶の餅茶を探していただくことはできますでしょうか?製造年数もできれば指定したいのですが・・・
回答:
可能です。もちろん銘柄によっては、難しいのもあります。また、製造年数もだいたいは判っても、はっきりしないものもあります。 同じ銘柄でも、保存される倉庫によって風味がまったく異なりますので、熟成が弱いめのか、強いめのか、どちらかをご指定いただきましたら、それになるべく近いものを探します。 すでにお手元にあるものと、まったく同じ味のものを見つけることは、まずできないことをあらかじめご了承ください。

■銘茶が孟海茶廠に多いのはなぜですか?
ご質問:
お試し会員のお茶のメーカーは、孟海茶廠や下関茶廠など、特定のメーカーのものが多いですよね? とくに孟海茶廠は、老舗のメーカーで、いいお茶を作っているということは、お茶の説明文章を読んでわかってきたのですが、最近入手したプーアール茶の専門書にも、やはり孟海茶廠や下関茶廠のものが多く紹介されています。 プーアール茶のメーカーは他にもたくさんあるようなのですが、なぜ銘茶には孟海茶廠や下関茶廠のが多くて、他のメーカーのものが少ないのでしょうか? 技術の格差が大きいとか、ブランド価値があるとか、生産能力とか、理由があるのでしょうか?
回答:
1950年頃から1995年頃まで、雲南の茶葉は専売公社制で、特定の国営企業だけが輸出用のプーアール茶を作っていました。
孟海茶廠 雲南省西双版納(Xishuangbanna)
下関茶廠 雲南省下関(Xiaguan)
昆明第一茶廠 雲南省昆明(kunming)
この3つがほとんどでした。 例外として、たとえば昆明第一茶廠が景谷茶廠に製造を委託して、販売は昆明第一茶廠が行ったような形もあります。 中国国内向けのメーカーは、四川、チベット、青海、新疆向けの品を作っていましたので、海外にはあまり流通していません。
2001年以降くらいから自由化されたので、小さな民営のメーカーでも、自由に作って自由に販売しています。

■半生熟茶はどのような味でしょうか?
ご質問:
半生熟茶とされる、「7581後期文革磚80年代」を飲みました。美味しいプーアル茶でしたが、熟茶の「鳳凰沱茶93年プーアル茶」や「厚紙黄印七子餅茶」と同じような印象で、半生熟茶の味の特徴を見つけることはできませんでした。半生熟茶の味の特徴とは、どんなものなのでしょうか?
回答:
当店では、「熟茶」という言葉は「渥堆」加工されたものであると定義しています。したがって、「7581後期文革磚80年代」も「鳳凰沱茶93年プーアル茶」も「厚紙黄印七子餅茶」もみんな渥堆で作られた「熟茶」です。
「渥堆」(ウォードゥイ)についてはこちら
+「73白紙特厚磚プーアル茶」
熟茶の場合に、「半生熟茶」とするのは、そのメーカーの製品の中では、 「渥堆」の熟成が浅いものです。
一方で、生茶の場合に「半生」とか「2分熟茶」という言い方があります。それは陳年茶葉をつかったもので、「渥堆」加工されていないため、当店では生茶と分類しています。
+【7562磚茶プーアール茶】

■ 包み紙や内飛なども含め、お茶1枚1枚の表情?が異なりますね
ご質問:
今回お送りいただいた厚紙黄印七子餅茶 7枚と、前回の2枚の計9枚を並べて見ますと、包み紙や内飛なども含め、お茶1枚1枚の表情?が異なりますね。

回答:
包み紙のバラつきは単に紙の製造技術や印刷技術の問題です。
また、保存熟成のときの倉庫の位置の違いとか、竹の皮の七枚一組の何枚目であるとか、そんなことによるちょっとの差が、紙にも影響することがあります。

■中国土産畜産進出口公司雲南省茶葉分公司とは?
ご質問:
プーアル餅茶の包装に書いている会社名のようですが、中国土産畜産進出口公司雲南省茶葉分公司ってなにですか?孟海茶廠の作ったお茶のはずですが、この会社名が書かれています。どのような関係なのでしょう?
回答:
1950年~1990年頃まで、雲南の茶葉が専売公社制だった頃の茶葉を輸出できる権利を持っていた国営企業のことです。どこの茶廠でつくられようが、海外への輸出は特定の国営企業が引き受けていました。
2001年以降、自由化されてから後にも、そのデザインを継承している品があります。
台湾の五行図書から出版されている「七子餅辞典」の191ページに、茶葉の輸出をしていた国営企業の年表があります。たとえば「早期藍印鉄餅50年代」の包み紙には、「中国茶行公司雲南省公司」と書かれています。1950年頃はこの会社が当時の輸出業務をしていたのです。

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