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丁家老寨青餅2012年プーアル茶 その5

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丁家老寨青餅2012年プーアル茶

■変化
プーアール茶は餅茶になって完成するまで、風味の変化が続きます。
完成してから後にもゆっくり熟成するので、ある意味でノンストップです。変化し続けることを肯定的にとらえ、そこに魅力を見つけるからこそ、プーアール茶独自の美味しさが楽しめます。
もしも変化することを劣化や酸化と否定的にとらえるのなら、なにもこの製法や保存方法を選択する必要はありません。

この地域の古茶樹は、世界でトップクラスの素質の良い自然栽培です。これを素材にして緑茶をつくっても烏龍茶をつくっても紅茶をつくってもよいのです。
現在は真空パックにして冷蔵庫に入れることもできます。飛行機が飛んでいるので一週間で手元に届きます。

遠い辺境地から運び出すのに月日のかかっていた時代に、変化してゆく魅力をもつこの製法が生まれ、生茶のプーアール茶の今があるのなら、その個性を尊重したいところです。

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

そのようなわけで、当店では10年~20年経ってもなお美味しく飲めるようにありたいと思っています。
20年も熟成された過去の名作には特別な美味しさを感じますが、無名のもので20年も経ったお茶に美味しいのは少ないので、だからこそ過去の名作のつくり方や保存方法を探っています。

最近の生茶のプーアール茶は、出来てすぐに美味しいことが求められています。もしかしたらそのことを追求するあまり、過去の名作のような美味しさを失ってはいないか?と、思うところがあります。
そのあたりを意識して、品茶します。

■品茶・製茶のちがい
まずは、農家が標準的につくった毛茶と、当店のオーダーの毛茶とを比べてみます。

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

丁家老寨青餅2012年プーアル茶
左: 農家の毛茶
右: 当店オーダーの毛茶

大きな違いは、揉捻と堆積萎凋です。
かんたんに言うと、農家の毛茶はより緑茶に近い風味で、当店のオーダーのはほんの少し紅茶に近づいた風味です。
熱湯を注いだとたんに香り立つのは農家の毛茶です。
この香りを追求すると、殺青の火をやや深く入れて、揉捻や堆積萎凋はしないほうがよいのです。揉捻は風味の輪郭をぼやけさせ、また茶湯の色を濁らせがちになります。さらに、湯を注いでもすぐには開かないので、おのずと時間をかけてじんわり抽出することになります。

堆積萎凋によって半発酵になった茶葉は、ほんの少し紅茶に近づくわけですが、紅茶もまたじわっと蒸らして淹れます。
そして、長年熟成したプーアール茶も、半発酵の紅茶と同じような変化があり、蒸らし時間を長めにとります。
それが狙いの美味しさなのだと思います。

一方で、緑茶的な風味はサッと煎じるほうが香り立ちやすく、新鮮味が引き出せます。この良さを追求するなら、萎凋や揉捻は少ないほうが良いことになり、さっと煎じるほおが美味しいのです。

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

丁家老寨青餅2012年プーアル茶
左: 圧餅前の毛茶
右: 圧餅後の餅茶

つぎに圧餅の前後の比較です。
圧餅前と圧餅後では、湯の色や葉底(煎じた茶葉)の色に違いがあります。餅茶にする時の圧延の蒸気や乾燥のときの熱によって変化するからです。
ここでもまた上と同じことが言えて、すぐに飲むのなら、圧餅しないほうが新鮮な風味が引き立ちます。
圧餅するとまろやかになり、風味の輪郭がぼやけます。

ところで、萎凋(半発酵)+火入れで仕上げる代表的なお茶は「烏龍茶」です。とくに半発酵度の強いタイプの烏龍茶は、堆積萎凋したこの丁家老寨の毛茶を、さらに鍋で少し炙った風味に似ています。
1700年代にイギリスに大量に輸出された福建省武威山のBOHEA (ボヘア・ボヒー)は、西側では紅茶ということになっていたそうですが、実は半発酵度の高い岩茶(烏龍茶・青茶)でした。BOHEA は萎凋で半発酵させてから、火入れで仕上げる烏龍茶の一種です。
もしも、易武山のプーアール茶がその当時に海を渡って取引されていたとしたら、BOHEAに似せてつくられた可能性が大いにあります。

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

丁家寨の老人の話では、堆積萎凋した毛茶を竹籠に詰めてフランス人に売ったということですが、それはもしかしたら半加工品で、遠くへ運ぶ中継点で竹籠のまま火入れされていた可能性があります。中継の仕事には、お茶づくりを知っていた広東出身の華僑が関係していました。
あくまでも当店の推測ですが、年代モノのプーアール茶のつくり方が過去のこうした歴史を引きずっていると考えたほうが、辺境地で単独に発明されたというよりも現実的だと思います。

プーアール茶の生茶は、一般的には緑茶の一種と解釈されていますが、そうではなく、半発酵の青茶(烏龍茶)の一種であり、西側では紅茶と解釈されていたというのが当店の見解です。

■品茶・栽培のちがい
つづいて易武山麻黒村大漆樹との飲み比べです。
【易武古樹青餅2010年プーアル茶】
同じ易武山でも茶樹の仕立て方の異なる2つの地区を比べます。
その違いが茶葉の大きさや形の違いとなって現れています。そして過去の名作ではそれぞれの特徴をとって「大葉青餅」・「小葉青餅」と呼び分けていたのではないかと推測してみました。

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

丁家老寨青餅2012年プーアル茶
左: 丁家老寨青餅2012年プーアル茶 このお茶
右: 易武古樹青餅2010年プーアル茶

湯を注いだ瞬間に香り立つのは、やはり新しいこのお茶のほうに分があります。口に入れた瞬間もそうです。
しかしいったん口になじんでからじわっと戻ってくる後味の印象は、『易武古樹青餅2010年』のほうが強いです。
おそらくこれには味覚のトリックのようなものがあります。小葉青餅の 『易武古樹青餅2010年』にはドライな苦味が強くあり、淡麗な中に舌にピリッとくるようなエッジが利いて、その刺激の反動による錯覚を起こし、旨味や甘味を強く感じさせるのです。

大葉青餅のこのお茶『丁家老寨青餅2012年』は、おなじく易武山の淡麗風味でありながら、はじめから最後までまっすぐに押してきます。鋭角なところがなく、おっとり舌にのしかかってくるような質感には、キメ細かな粉を舐めたような印象さえあります。それが溶けてなくなるときに、沈香や伽羅のような香りをかすかに残します。それはまったく易武山の古典的な風味で、過去に当店で扱ったものでは『同興號後期圓茶70年代』に似ています。
【同興號後期圓茶70年代】

■品茶・名作とのちがい
つづいて年代モノとの飲み比べです。
大葉青餅の代表作『7582大葉青餅70年代』と比べてみました。
【7582大葉青餅70年代プーアル茶】
その紹介文章の中で「・・・舌にぐっとくる柑橘の酸味と渋味・・・」とありますが、それは2009年のときの印象です。現在はもっと熟した「陳香」や「老味」が全体の印象を支配しています。やはりこれも『同興號後期圓茶70年代』に似てきていると思います。

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

丁家老寨青餅2012年プーアル茶
左: 丁家老寨青餅2012年(このお茶)
右: 7582大葉青餅70年代

1970年代と2012年、40年間のひらきがあると、さすがに風味の印象は大きく異なります。それでも共通点はあります。
例えば、液体に粉っぽさを感じるところや、鋭角なところがなく、全体的に押してくるような印象や、強い甘味がありながら後味のさっと消えるようなサッパリ感です。
「丁家老寨」=「大葉青餅」とこれだけでは言えないのですが、よく似ています。

■品茶・野生とのちがい
つづいて弯弓の野生茶との飲み比べです。
漫撒茶山の野生茶ブームで人気が出たのが「弯弓」です。弯弓はかつて人が管理していた農地ですが、1800年代の山火事の後から人の住まない自然の森林に戻っています。残った茶樹は野生化して堂々たる大きさに育っています。現在は季節になるとヤオ族が山小屋に泊まり込み、お茶づくりをしています。
この飲み比べでは、栽培モノと野生モノの違いを見ることになります。
製茶方法を合わせた方が良いので、当店のオーダーではなく、農家が標準的につくった晒青毛茶で比べてみます。

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

丁家老寨青餅2012年プーアル茶
左: 丁家老寨の晒青毛茶
右: 弯弓の晒青毛茶

目を瞑って飲むとどちらか分からないほど風味がよく似ています。
丁家老寨と弯弓は直線距離では15キロほどなので、山の土質は似ていると思われます。舌触りのサラサラした密度の濃い感じが、どちらにもあります。
よく味わうと、丁家老寨は華やかで甘く、弯弓は沢の空気の香りにピリッとした辛みが利いています。
どちらにも共通して、後口にミルクのような甘い香りがかすかに残ります。

葉底(煎じた後の茶葉)の違いが大きく現れています。
丁家老寨の幅のある円い形はここの特殊な栽培方法によるもので、対して弯弓の細長く尖った形は、どちらかというとより野生に近い状態の、メコン川より西側の布朗山や南糯山の古茶樹と似ています。
野生モノと比べてみても、丁家老寨の茶葉は大葉青餅の「大葉」というのにふさわしい形をしていますが、そうするとやはり「大葉青餅」と「小葉青餅」は等級ではなく、その栽培方法に対してつけられた名前だと思えるのです。

追記:2012/06/06
後日あらためて弯弓の晒青毛茶を飲んでみると、丸く幅のある丁家老寨のに似たのが葉底からたくさん見つかりました。やはりこの形はこの地域の特徴なのかもしれません。色もまた丁家老寨に似たのがあります。

■飲み方について
このお茶はまったく飲み方を選びません。
他の生茶のプーアール茶に比べて、まろやかでやさしい風味です。
蓋碗でさっと湯を切って淹れると、繊細な風味があり、大きなポットでじわっと抽出すると、おおらかな風味があります。
濃いめにすると、しっとりした苦味が楽しめます。
熟成変化を意識して、お茶の味の輪郭をはっきりさせないつくり方が、味の幅をもたせているのだと思います。

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

輪郭がはっきりしなくとも、しっかり存在感があります。
それは古茶樹の早春の滋味あふれる成分であり、漫撒茶山の土質から生まれる独自の風味なのでしょう。
丁家老寨の栽培方法は、少ない茶葉に栄養を集中させて、その特徴をさらに強く引き出しています。
ひとつのお茶の中に様々な印象を見つけられるので、そのときどきの気分に合わせても楽しめるでしょう。

また、今はまだ表に現れていない風味がたっぷりあるはずです。
長期熟成によって現れてくるそれらを見つける楽しみもあります。

■その他
1枚385g (竹皮の円い箱入り)
1筒7枚組 (竹皮包み)
当店オリジナルのお茶の標準サイズです。
餅茶の包み紙は、一枚ごとのお求めの場合は2重。竹皮1筒7枚組のお求めの場合は1重です。

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

このお茶の圧餅の特徴により、餅茶の中央部の布の絞り込みによるへこみが深いために、中央に小さな穴が開く場合があります。このようなものとご理解ください。失敗ではなく、いちばん圧力がかかって乾燥しにくい部分が、くぼみの深いために乾燥しやすくなるよう考えられています。

丁家老寨青餅2012年プーアル茶

■その6 熟成 (つづき)
【丁家老寨青餅2012年プーアル茶 その6】


丁家老寨青餅2012年 1枚 380g


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