■晒干
次の日は晒干（天日干し）です。
天日干しで仕上がった茶葉を「晒青毛茶」。略して「毛茶」と呼びます。
4日目の夜中に雨が屋根を叩く音に目覚めました。
連日の重労働で関節が痛んで発熱し、すっかり眠りが浅くなっています。前日の仕事が水の泡になるのかと思うと余計に痛みが増して、雨に濡れてはその日の茶摘みもできないので、一日寝込んでやると決めて布団にもぐったものの、朝になると嘘のように晴れています。
太陽が出てくると雲がきれいになくなります。
かんばつのためか、雲の勢力が弱いようです。
海抜1800メートルの空気の層の薄い太陽光線は火で炙るかのごとく強烈で、晒干する茶葉が焼けるのではないかと心配になるくらいでした。そのためにやや厚めに茶葉を敷きます。
逆に薄く敷くと見た目は緑茶らしく緑色が残りますが、当店は灰色っぽく仕上がるのを好んでいます。
毎日晴天のうちに晒干が終わりました。
途中、突風が吹いて筵（むしろ）一枚が吹き飛ばされるアクシデントがあり、約6キロ分の毛茶が風にさらわれましたが、雨で一日の労働が無駄になることに比べると、そのくらいは痛くも痒くもありません。
むしろ一日か二日くらいは雨が降って、その分不足するだろうと深読みしていたくらいです。まだ雨の少ないのうちの鮮葉は上質を保ち、それを集められる余力もあります。
曼邁寨の仮設集荷場の人々にも、明日も来るからよろしく！と声をかけてあります。
もちろん当店がこの鮮葉を買わなくとも、後から買い付けにやってくる茶商やメーカーに売ることがきます。
しかしそれはあまりにもったいないと思いました。せっかくここまで良い鮮葉を手に入れる仕組みが出来上がったので、この茶葉で別のお茶をつくれないかと考えました。
それが古茶樹でつくる「紅茶」になります。
+【巴達古樹紅餅2010年紅茶】
このお茶「巴達古樹青餅2010年」のための毛茶は4月6日にそろいました。
最終期限の4月10日に4日間も早い計算です。
易武山の一軒の農家が40日間かかった仕事を、巴達山では人海戦術でたったの5日間でやってのけました。
同じ方法を易武山にも適用できるかというとそうではありません。気候の違い、農地の違い、お茶づくりにかかわる民族の違い、などなど様々な要素が絡んでいます。
とくに今回の収茶戦略は、旬が短くなったかんばつの春には良い結果となりました。
晒干の終わった毛茶は袋詰めして、次の工程「圧餅」を待ちます。
6月頃になると巴達山では毎日のように雨が降り、湿度が高くなるので、毛茶の保存が難しくなります。6月になるまでに引き取れば良いので、ここでいったん山を降りて町に戻りました。
■挑黄片
「黄片」は、成長して硬く黄色くなった茶葉です。見た目が悪いので取り除きます。
圧餅の手配を待つ間、農家が挑黄片をしてくれました。今回の毛茶には黄片が驚くほど少なく、実際のところは茶葉以外の不純物を除く作業となります。不純物とは、竹の籠の切れ端や稲穂の箒の切れ端（茶葉を集めるときに使います）、外から飛んできた鶏の羽、毛茶を入れるナイロン袋の糸くず、羽虫の死骸などなどです。
完全には取り除けないので、お客様の理解が必要です。辺境の山奥での仕事です。
毛茶に黄片が少なかった理由は、巴達山の古茶樹がより自然に任せた栽培方法のためです。剪定や土の鍬入れがされず、他の樹木が適度な影をつくると、茶葉の成長がゆっくりなので、成長しすぎて堅くなる黄片が少ないのです。
長く続いたかんばつが終りに近づき、雨が少し降ったタイミングで采茶したのも、新芽や若葉の純度が高くなった理由です。
「古茶樹でこれほど美しい毛茶は初めて見る」と、 他の茶商に言わしめるほどになりましたが、我々にしてもこれと同じものはめったにつくれないだろうと思っています。
■その5 圧餅（つづき）
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