■品茶
このお茶の出来具合を見るために、別のお茶と味比べします。
今回は技術的にいろいろ試す暇はなく、手元には比較にふさわしい同系統のお茶がありません。巴達山滞在中に同じ巴達山の章朗寨の古茶樹の毛茶を入手したのですが、殺青の技術が悪く、焦げ味が強く出ていたため、比較対象になりませんでした。
そこで、西双版納の景洪市にある茶荘を訪ねました。
観光の町として開発中の景洪市には、いくつもの茶荘があります。茶荘にはそれぞれに得意分野があります。例えば、茶山の出身者が故郷のお茶を扱っているところ、特定のメーカーの代理店をしているところ、主人自ら茶山に出向いて収茶し、オリジナルのお茶をつくっているところ、などなど、お茶もいろいろです。
比較したいのは巴達山の古茶樹の製品です。
すぐに思い当る店がなかったので、まずは知人の茶荘を尋ねました。そこも茶荘の主人が収茶し、オリジナルのお茶をつくっています。
この茶荘では巴達山の製品はつくっていなかったので、急遽近所から巴達山に詳しい人を2人ほど呼んでくれました。そのうちの1人は自ら買い付けた曼邁寨の毛茶を袋に詰めて持ってきました。
早速二つを味比べです。
その試飲の結果ですが、当店の『巴達古樹青餅プーアル茶』の評価は思ったよりも高く、別の巴達山の毛茶を持って来た本人にも「自分のよりも良い」と褒められました。この土地の人々は他人のお茶は偽モノ扱いするので、逆にちょっと拍子抜けです。
お茶の香りに隠れたほのかな「蘭香」、レモンをかじったような新鮮な苦味、それを包み込むおだやかな「糯米香」と、どれをとってもしっかりしているのが決め手でした。
とくに 「糯米香」は、かまどの薪を出し入れしてこまめに殺青の火加減を調整した成果です。製茶技術の現れるところです。
別の巴達山曼邁寨の毛茶は、全体的に風味が薄いように感じたのですが、「4月末に買い付けた」と聞いたので、ピンときました。
当店の茶葉はすべて4月6日以前のものです。その次に巴達山を訪問していた4月20日頃に、「曼邁寨の初摘みはほぼ終わり」という話を聞いていたので、4月末の買い付けではもしかしたら二番摘みの茶葉かもしれません。
この地方は4月中旬から急に気温が上昇し雨が増えてくるので、茶葉の育ちが良いかわりに味は薄くなってゆきます。
今回のお茶づくりはとくに茶摘みのタイミングに気を使ったので、その成果があったのは嬉しいことでした。
しかし、実のところそれは期待していたほどの大差ではありませんでした。本当はもっと圧倒的な違いになると思っていたのです。
このくらいのやり方では、圧倒的に美味しい生茶はできないのかもしれない。一週間ほど考えてからそう思いました。
それは昔の高級茶と比べてしまうからです。昔の高級茶と比べると、少々乱暴な言い方をすると近年の生茶のプーアール茶に美味しいお茶はありません。
口にした瞬間に絶句するような、圧倒的な美味しさが、昔の老茶と呼ばれる1980年代初期までの生茶にはありました。誰もがその美味しさが解り、いつまでたってもその記憶が消えないようなお茶です。
現在そのようなお茶がつくれない理由には、思い当るところがあります。
おそらく、30年前と現在とでは、茶葉の質や茶摘みや製茶にかける労働力が違うのです。
高級茶づくりは過酷な労働の集積です。山奥に隔離されたような農家の自給自足生活と、労働賃金の格差がそれを可能にしてきました。しかし近年ようやくはじまった経済発展は、山の人々の暮らしにも大きな変化を与え、急速に格差を縮めつつあります。
例えばの話、まだ日の昇らない暗いうちに茶摘みをすると、もっと甘味の強い茶葉が入手できるでしょう。しかし夜中の3時から暗い森の中に入ってくれる農家は、現在にはありません。
経済効率の優先される現在は、年に二度は茶摘みされますが、それを一度だけにしたり、あるいは3年に一度にすると、もっと風味は濃くなるでしょう。
茶摘みの一芽二葉を、一芽一葉にすることも考えられます。しかし、それらはすべてお金のかかることで、そのまま製品価格に転化すると、高価になりすぎて売れなくなります。
世界的な不景気により高級茶ファンの懐もさみしくなっています。昔のような高級茶は、市場に求められていません。
また、最初に書いていたように、西双版納の西側のお茶は高級茶づくりの歴史が浅く、製茶の創意工夫は始まったばかりです。完成度の高まるには、まだ年月を要するでしょう。
お茶の美味しさは、相対的なものです。
他にもっとすごいのが無ければ、このお茶がすごいという評価になります。年数を経て銘茶に選ばれる可能性が無いとは言えません。
その時のために今ここに書いておきますが、
生茶のプーアール茶は旬の茶葉をタイミング良く茶摘みするのがポイントです。もちろんあらゆる工程に注意と工夫が必要で、その少しの差が歳月を経て圧倒的な違いを生むのです。
■その7 熟成(つづき)
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