
| 茶商の倉庫がプーアール茶の味をつくる プーアル茶は、同じ銘柄のものでも、味が大きく異なることがあります。 それは保存環境が大きく影響しています。 茶商は、一部のプーアル茶を倉庫に保存し、何年か熟成、あるいは10年も20年も熟成させてから売ることもあります。そんな保存熟成がさかんになったのは、1950年頃からの香港であると推測しています。 産地の雲南にて倉庫熟成させるのではなくて、そこから遠い香港で熟成させたのには、歴史的な背景があります。 それについては、以下のページの「プーアール茶の味を変えた歴史」をご参照ください。 ⇒【プーアール茶の味を変えた歴史】
![]() 1950年代に、香港では茶楼(飲茶レストラン)ブームがありましたが、その当時の飲茶は、現代のような点心(料理)よりもお茶が主役でした。例えば、お茶一杯を注文すると、点心を2つほど選ぶというようなルールだったそうです。茶楼は美味しいお茶を競い、茶商たちがそれに応え、上質なプーアル茶が輸入されました。 またそれと同時に、1950年代は、中国では社会主義改革が農業にもおよび、雲南地方の茶葉の取引は国の管理となり、統一買い付け、統一販売の品になりました。国営の貿易会社が配給という形で、きまった量の茶葉を香港の茶商に割り当て、輸出します。需要のあるなしにかかわらず、割り当てられたお茶は、すべて引き取るしかありません。豊作の年には、香港の茶商は、需要を上回るお茶を仕入れることになり、そこで規模の大きな倉庫での保存が必要となりました。 亜熱帯気候の香港では、6月〜9月の期間はとくに、気温30度以上湿度90度以上の日も多く、水分を含んだ茶葉には、2つの原因による変化が起こります。 1.お茶を美味しくする菌類が緩慢に活動する。 2.成分の変化がゆっくりと起こる。 しかし、実のところは、倉庫での熟成にどのようなことが起こっているのか、詳細には解明されておりません。関係する要素が多すぎ、いろいろなケースがありすぎ、時間がかかりすぎ、解明が難しいようです。 ちなみに、1970年代からはじまった、メーカーでの「渥堆」発酵については、メーカーの施設内の、人工的に環境を管理できる場所で行われるため、条件が限定でき、菌類がどのようにしてお茶を美味しくするかが、ある程度解明されています。 「渥堆」によるお茶作り初期の頃の、「73白紙特厚磚プーアル茶」のページにも説明しております。 ⇒【73白紙特厚磚プーアル茶】 -------------------------------- 黒麹カビ(Aspergillus niger) 青カビ(Penicllium) クモノスカビ(Rhizopus) 灰緑麹菌(Aspergillium gloucus) サッカロミケス酵母菌(Saccharomyces) 土生麹菌(Aspergillium terreus) 白麹菌(Aspergillium candidus) その他雑菌(Bacterium) -------------------------------- (雲南科技出版社 「雲南普シ耳茶」の一部を参照) これらの菌類は相互に作用して、例えばある菌の活動によって発生する熱によって、別の菌が活動しやすくなったり、ある菌の活動によって作られた成分が、別の菌の栄養になったりして、その結果、茶葉の栄養を人の体により良い成分や、美味しさをつかさどる成分に変えて行きつつ、他の悪い雑菌を寄せ付けない抗菌効果を発揮します。 茶商の倉庫のある地域 本格的な茶商の倉庫のある地域は、限られています。
![]() ■香港倉 乾倉 : 乾燥した状態(風通しがある倉庫) 湿倉 : 加湿した状態(風通しの悪い倉庫) 常温乾倉 : 常温常湿で乾燥した状態、もしくは除湿している室内。 香港人の倉庫が、プーアル茶の加工技術において、もっとも高い評価を得ています。香港倉の1970年代よりもっと前の「老茶倉」と呼ばれる倉では、茶に「老味」があり、独特の香りがします。 ■広州倉 乾倉 : 乾燥した状態(風通しがある倉庫) 湿倉 : 加湿した状態(風通しの悪い倉庫) 重湿倉 : 水分を加えた状態(茶葉に直接水を撒く) 常温乾倉 : 常温常湿で乾燥した状態、もしくは除湿している室内。 広州人は、香港人からその技術を学びました。現在は、ここに置かれているプーアル茶のほとんどがメーカーから出荷された新茶です。広州倉の1999年頃から以降の新茶倉には、「土味」があるのが特徴です。広州には、中国最大のお茶市場があるため、そこの茶商が何軒かあつまって共同で大きな工業用倉庫を借りたり、マンションの一室を倉庫にしたり、それぞれの工夫で、プーアル茶を保管しています。 ■深セン倉 乾倉 : 乾燥した状態(風通しがある倉庫) 湿倉 : 加湿した状態(風通しの悪い倉庫) 重湿倉 : 水分を加えた状態(茶葉に直接水を撒く) 常温乾倉 : 常温常湿で乾燥した状態、もしくは除湿している室内。 深セン倉は、1997年頃からの新茶倉で、香港に近いことと土地の安さから、香港から移転した倉庫も多くあります。新茶を深センの倉に2〜3年置いてから、香港倉に移すというのもあるそうです。 ■台湾倉(未入倉・退倉) 常温乾倉 : 常温常湿で乾燥した状態、もしくは除湿している室内。 台湾には、1990年代中頃からのプーアル茶ブームによって、倉庫が最もたくさんあると言われていますが、加工用(風味を大きく変化させる)の倉庫ではなく、常温の乾燥した倉庫です。 台湾の商人のあつかう老茶のプーアル茶は、そのほとんどを香港の商人から仕入れていて、台湾の倉庫で寝かしたものです。いったん香港の加工用の倉から出ているため「退倉」と言います。 1980年代以前のプーアル茶はそのほとんどが香港の加工用の倉庫に置かれたことがあります。 加工用の倉庫から出たすぐには、倉庫臭と呼ばれるカビ臭みがあったものが、「退倉」をして乾燥状態で1年以上置くと、倉庫臭が消え、さらに10〜20年寝かされて、美味しく仕上がるものもあります。
倉庫のタイプによる環境の違いを紹介します。 ■常温乾倉(未入倉・退倉) 常温で、湿度も自然のままで、菌類による発酵はごく少ないか、もしくは酸化発酵だけで変化する倉庫のことです。台湾がもっとも多く。香港、広州にもあります。人がそこで生活できるレベルの温度や湿度の環境です。 厳密に言うと倉庫ではなく、例えば専門店などで棚に置いてあるプーアル茶や、空いた部屋を倉庫にしているケースも該当します。この場合、その土地の気温や湿度が、倉庫の環境を大きく左右します。しかし、人の居る室内で、エアコンが入っている場合は、その差は少なくなると言えます。
![]() 広州の卸問屋で、メーカーから直接入荷したプーアル茶を置いているところと、香港の小売店の棚です。 新しいプーアル茶を一度も加工用(風味を大きく変化させる)の倉庫に入れない場合を「未入倉」といいます。 とくに小売店の棚は、エアコンが効いていて湿度は低めです。加工用(風味を大きく変化させる)の倉庫で数年熟成したものを、このような常温の乾燥状態のところに移すのを「退倉」といいます。 乾燥した状態では、菌類の活動はなく、成分変化もごくゆっくりとなり、熟成してゆきます。小売店の棚や一般家庭の部屋に置いてからも、ゆっくりと味は変化し続けます。 1992年頃から「未入倉」のお茶が増えています。プーアール茶の商売が自由化され、新しいメーカーが多くでき、それまでにはプーアル茶を飲まない地域の人たちが飲むようになったため、生茶でも熟成させないでそのまま販売するケースが増えました。 常温乾倉(未入倉・退倉)に対して、以下に紹介する倉庫は、どれも積極的に味を変化させるための環境を作り出しているため、ここでは「加工」のための倉庫という表現をします。 以下は加工のための倉庫です。 ■乾倉 常温より少し高いめの温度と湿度。 乾倉においては、夏が大切な季節で、温度は35℃以上になります。湿度は年間を通して60−70℃くらいに保たれますが、雨の日など、湿度が90%を超えるときは、倉庫の中も湿度もある程度高くなります。 冬には20℃くらいまで下がり、大きな味の変化はありません。 ■湿倉 倉庫は高温で湿度は高く保たれます。 温度は乾倉の温度より4−5度高く保たれます。 湿度は80−100%。倉庫の中は息苦しいほどの湿度です。ほどほどに風通しがあり、茶葉の中にまでカビの生えるようなことはありませんが、風通しのわるい場所のプーアル茶には白露(茶葉の成分が浮き出て白くなる)があります。一番底に置かれるものはすべて白くなります。 この湿倉は、上記の乾倉に比べて風通しが悪いだけのことで、とくに加湿をしていないところが多いと聞きますが、茶商によってそれぞれ独自の工夫があるものと思われます。 ■重湿倉 広州の肇慶には「防空壕」(戦争のときに作られた)を利用した倉が多いそうです。 高温、高湿のうえ、さらに水をかけます。温度は湿倉とほぼ同じです。水を直接茶葉にかけるくらいですから、白露(茶葉の成分が浮き出て白くなる)や、眼に見えてカビの生えるものがたくさんがあります。 さらに底のほうに置かれる茶葉は通気性が悪く、黄色く焦げたようになります。「焼ける」といわれる現象がおきます。茶葉はアンモニア臭を持ち、人の体に悪い成分もあります。 評判の悪い「湿倉」のお茶というのは、この「重湿倉」のことだと思います。水をかけて発酵を促すことにおいては、メーカーで熟茶を作る際の「渥堆」(ウォードゥイ)と同じなのですが、「渥堆」(ウォードゥイ)は雲南の山地のメーカーの倉庫で行われ、茶葉をよくかき混ぜて、まんべんなく空気に触れさせ、また、茶葉の温度が適正に保たれるようになっています。 それに比べると、重湿倉の管理は大雑把で、茶葉の水分が多すぎて、味を悪くするケースが多いようです。 ![]() 加工のための倉庫の設備にかかせないのが、扇風機です。 湿度が高くなると、水はより冷たいところに溜まろうとします。倉庫の中に温度の差ができると、あるところに置いた茶葉は美味しくなり、あるところにおいた茶葉は不味くなったり、カビが生えたりということが起こります。 そのため、扇風機を回して倉庫内の空気を攪拌し、温度と湿度がまんべんなくなるようにしています。
![]() 香港で見つけた問屋さんの出荷作業。 竹の皮の筒にスプレーで水をかけてから、ビニールでくるんでダンボールに詰めていました。密封することで、水分を逃がさないため、茶葉が湿った状態が保たれます。菌類の活動や酸化発酵によって茶葉の水分が失われてゆけば、変化はそこで止まりますが、ビニールでくるんであると、水分のある状態が続くため、変化は長く続くものと思われます。 ※ ここでの倉庫の情報は一般的なものであり、倉庫を持つ茶商も個人個人によって考え方が異なるため、これが正しいという情報ではありません。 茶葉の保存管理は、ここで書いた以外にも、必要な知識や技術があるため、家庭でまねをして、茶葉を台無しにするようなことにならないように、ご注意ください。 ■保存熟成のプーアール茶は減っています。 1990年代末期にはじまったプーアール茶の取引の自由化と、中国国内でのプーアール茶ブームによる急速な需要の拡大により、現在もっとも多くのプーアール茶は、茶商の倉庫に入らないまま、店頭に並んでいます。保存熟成されていないプーアール茶が主流となりました。 倉庫熟成のしっかりした少し古いプーアール茶は、専門知識のあるごく少数の店でのみ扱われています。 例えば、上海にはプーアール茶を置くお店は数百軒はありますが、茶商の倉庫で熟成された茶葉を扱えるのは、ほんの数店ほどです。ところが、多くのお店で、10年モノ20年モノが販売されているという矛盾があります。間違ったところでプーアール茶を買っていると、本当の熟成の風味を知らないままとなります。 お客さまのご質問と回答 ご質問: 「倉庫のにおい(味)」って、どんなにおい(味)?私も何となくわかるのですが、「これが」と具体的に表現(説明)できないのです。 回答: 今パッと思いついたので言うと、「真夏の突然夕立が降ったときの地面から発する臭い」でしょうか・・・。 解説: 香港あたりの茶商が味を変える目的でプーアル茶を長期保存する倉庫は、常温で加湿されていなくとも、発酵臭があります。倉庫から出したすぐのお茶にも独特の発酵臭が残っています。常温で乾燥した状態の環境に移動させて(退倉と呼ぶ)、保存させるとその臭いは消えてゆきます。 ご質問などお気軽にメール下さい。 ⇒【店長にメール】 関連ページ 個人が室内で茶葉を保存することについて ⇒【プーアール茶の保存】 プーアール茶の味の違いにふれています。 ⇒【プーアール茶を味で選ぶ】 店長のブログにて、7542七子餅茶の熟成違いについて ⇒「7542七子餅茶の熟成の比較」 紀元前より飲まれていた記録があり、お茶の元祖といわれる雲南地方のお茶ですが、「後発酵茶」、つまりプーアル茶となったのはいつなのか?その謎に迫ります。 ⇒【プーアル茶の生い立ち】 |