虫食いの野菜や果物のほうが甘くて美味しくて、そして安全なのと同じように、お茶もまた虫への理解があったほうが、自然の恵みをたくさんいただくことができると思います。
このページはそういう話をします。
美味しいお茶は飲みたいけれど、虫の姿は生理的にを受け付けないという方もあるでしょう。そういう方はこのページを見る必要はありません。写真があるので少々つらいと思います。
お客様の手元にとどく商品に虫が住みついているようなことはまずありませんので心配なさらないでください。
心配になるようなトラブルがあってから後に、このページを参考にしていただくので十分だと思います。
■製茶のときの虫
茶摘みと製茶は山深い農家で行われるため、周りには虫がたくさん住んでいます。虫の多さは山の生態環境の良さを証明しています。
茶葉はもともと多くの虫や動物の嫌う成分を持つので、食べ尽くされるような被害はありませんが、その成分に耐性のある一部の虫がこれを糧に生きています。
製茶をする途中には、茶葉から発する甘い香りに誘われた虫が寄ってきます。
天日干しをするプーアール茶の製法から、どうしてもこれらの虫を排除することはできません。
また、茶廠(メーカー)での熟茶づくりの発酵の工程においては、水分を含んだ一部の茶葉に虫が発生することがあります。
この写真はかなり拡大したものですが、人の眼には白い粉にしか見えない小さな虫です。人畜無害で湿った茶葉だけを食べて生きています。熟茶づくりが仕上がりに近づくにつれ、茶葉が乾燥して消えるように居なくなります。
もしも茶葉にこれらの虫が残っていたとしても、最終的な篩がけによって弾き飛ばされてキレイになり、製品となって出荷される時点で茶葉に虫は付いていません。
■長期保存のプーアル茶につく虫
長期保存による熟成を考慮してあるプーアル茶は、紙の包みや竹皮の包みで自然な通気を許し、茶葉が呼吸できるように保たれています。一般的には完全密封の包装をしません。そのため、茶葉の香りに誘われた小さな虫が包み紙の隙間から入ることがあります。
一般的な室内の常温の乾燥状態で保存されているお茶には、たとえ外から来た虫が入り込んでも、数日内に立ち去り、長くと留まることにはなりません。一般の家庭では基本を守って、乾燥した状態を維持しておけば、虫の心配はありません。
なんらかの理由で茶葉が湿っていると、虫はそこで茶葉を食べ、繁殖することもできるようになります。
■長期保存の茶葉につく虫の種類
年代モノの高級プーアール茶の多くが、広東省や香港の高温多湿の室内で保存されてきました。そこには季節になると「茶虫」と呼ばれる虫がつきます。
その虫が茶葉を食べたり包装紙に穴を開けたりして、その跡が残っていることがよくあります。
茶虫は蛾の一種の幼虫です。茶葉の価値を落とすものではないため、長期保存をする茶商の倉庫ではこの対策をしていません。
この写真のプーアル茶は「小緑圓茶」1970年代の名品です。
茶虫が茶葉を食べた跡が残っているのが外包みからも伺えますが、このようなことで価値の落ちることはなく、むしろ茶虫の跡を見て、年代や保存環境を知る手がかりにすることもあります。
「早期紅印春尖散茶プーアル茶」1950年代です。
このお茶は、当店で扱う茶葉の中での高級品のひとつです。良く探してみると、茶葉に茶虫が巣をつくった繭(マユ)の跡が見つけられます。白い綿のような繊維に茶葉がくっついています。これはそのまま煎じて飲んでもまったく問題はありません。
これらは何年も前に茶虫の付いた跡です。生きたまま茶葉に混じっていることはまずないので、ご安心ください。

「厚紙8582七子餅茶プーアル茶」1985年です。
餅面(餅茶の表面)に茶虫が白っぽい繭(マユ)を作った跡があります。これにも茶虫の跡はありますが、虫は存在していません。
茶商の倉庫では毎年3月頃の春先だけに発生して、5月の連休頃には成虫の蛾になって飛んで行き、居なくなります。
茶虫はプーアル茶がつくられて茶商の倉庫に入ってからまだ10年くらいの新しいうちはつきやすく、さらにそれ以上の長期保存のものにはややつきにくくなる傾向があります。

写真はちょうど春先のできてからまだ間もない茶虫の繭(マユ)です。 マユの白さがそれを証明しています。
右の写真には、茶葉に埋もれている茶虫のオレンジ色の頭がちょっとだけ見えます。
下の写真は茶商の倉庫で見つけた生きた茶虫です。

写真では大きく見えますが、小指の爪の先ほどもない小さな虫です。
こんな小さな体なので、茶葉を食べるといっても重量が減って価値が下がるようなことにはなりません。
また人を噛んだりはしません。
周りにある黒い粒状のものは茶虫の糞です。
それがカラカラに乾燥したものは漢方素材として珍重されます。茶虫の糞には葉を食べて消化するための酵素がたっぷり含まれています。「虫屎茶」と呼ぶこの漢方素材は、胃や腸の治療に使われます。
茶虫は生まれてからずっと茶葉しか食べていません。雑食の虫のような不潔さはないのです。
右上の写真は20年モノの虫屎茶ですが、プーアール茶のように長期熟成させたものもあります。
どちらかというとお茶屋さんよりも漢方素材屋さんに流通しています。広西省のほうで作っているので、広西の地方の茶葉が原料になっていると思われます。
同じ倉庫内でも、茶虫がつく茶葉とつかない茶葉とがあります。同じ銘柄で同じ製造年月日の茶葉でも、茶虫に好まれるのと好まれないのとがあって、茶虫に好まれるほうが人間にとっても美味しいお茶だと言われています。
「早期7572七子餅プーアール茶」
1975~1983年製造の高級な餅茶のひとつですが、必ずと言っていいほど茶虫に食われた後が包装紙に残っています。それが不思議と、包装紙の真ん中の「八中茶」商標の周りに穴を開けます。このことを本物の鑑定のひとつの手がかりにすることがあります。
虫食いや小鳥のつついた果実は糖度が高いと聞いたことがあります。まだ青い色をした果実でも、糖度の高いものは鳥につつかれ、熟れた色をしていても、糖度の低いのはつつかれないのです。まるで虫や鳥には糖度を見分ける眼があるようです。
茶虫にもその眼があるということになります。
包み紙だけを食べる虫も居ます。
「銀魚」と呼ばれます。これは古い本などにもつくごく小さな虫で、日本にも居るので、見たことのある方も多いと思います。

プーアル茶の包み紙は年代によって紙の質が異なるため、この銀魚に好かれる紙と、好かれない紙とがあります。
昔ながらの自然素材でつくられた手すき和紙のような紙が、銀魚にとっては美味しいようです。

さらに、これは竹の皮の包みにつく虫です。
この虫の姿はまだ見たことがありません。詳しいことが分かり次第ここに紹介いたします。
■一寸の虫にも五分の魂
近寄ってくる虫に、ごく少しだけの茶葉を譲って食わせたり、繭などをつくって汚されたところの一部を取り除いたりする、ほんの少しの妥協があれば、虫を抹殺する必要はありません。虫は美味しいお茶を知っています。その知識を共有した方が賢いと言えるかもしれません。
過剰に虫を気持ち悪がったり不潔がったりすると、虫を殺すための化学物質を使用することになるので、人間自らの健康までも脅かしかねません。そういう人の不安をあおって特定の化学物質を販売する手法が、防虫剤や抗菌グッズなどでは多用されています。そうしたことにどのような態度をとるかは、消費者個人としてのことであって、団体としてのことではないと思います。
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